「もう会社に行くのがつらい」「毎日サービス残業でクタクタ」…そんなブラックな環境でも、なぜか簡単に会社を辞められない人がいます。傍から見れば「早く辞めればいいのに」と思ってしまうのに、当の本人はさまざまな理由や感情に縛られて、ずるずると居続けてしまう――。
実は、こうした現象には行動経済学の視点が大きく関係していることをご存じでしょうか?
本記事ではブラック企業を「辞めない人」の心理を、行動経済学の理論をベースに紐解きながら解説します。辞められない自分や周囲の人の心理を客観的に知ることで、あなたの今後の判断材料になれば幸いです。
1. ブラック企業にいるとどうなる?

1. 長時間労働・サービス残業
ブラック企業の典型的な特徴として、長時間労働やサービス残業があります。休日出勤や深夜残業が常態化し、身体的・精神的な疲弊が深刻化しやすい状況に。
2. パワハラ・モラハラ
上司や同僚からの嫌がらせ、過度な叱責、理不尽な命令などはパワハラ・モラハラと呼ばれ、ブラック企業で頻発しがち。職場でのストレスがどんどん蓄積します。
3. キャリア形成が難しくなる
激務や環境の悪さによりスキルアップや自己学習の時間を確保しづらいことから、結果的にキャリア形成が停滞するケースも。やりたい仕事への転職準備ができず、負のスパイラルにはまり込む人も多いです。
4. うつ病
激務やストレスによってうつ病などのメンタル不調を発症するリスクも高まります。一度体調を崩すと転職活動どころではなくなり、ますます逃れられなくなってしまうのが実状です。
2. 行動経済学で見る「辞められない心理」の正体
1. サンクコスト効果
今まで費やしてきた時間や労力が惜しく、損をしたくないという心理。
- 「これだけ頑張ったんだから、もう少し我慢すれば報われるかもしれない」
- 「今辞めたら、今までの努力が無駄になるのでは?」
こうした考えが強いと、たとえ不合理な状況でも辞める決断が鈍りがちです。
2. 現状維持バイアス
人は新しい状況に踏み出すよりも、たとえ不満があっても現状を維持しようとする傾向が強いです。転職や退職という大きな変化を起こすより、「今の状態を続けた方がマシ」と感じてしまうのが現状維持バイアスです。
3. 損失回避
「得をする」より「損をしない」ことを優先したがる心理。
- 「次の職場でもブラックだったらどうしよう」
- 「給料が下がったら不安」
このような心配が先に立ち、目の前で確定している安定(少なくとも今の仕事の給料はある)を手放すのを恐れます。
4. フレーミング効果
物事の捉え方(フレーム)によって判断が左右される現象。
- 上司から「ここで辞めたら根性なしだ」「次の仕事も結局ダメだぞ」などネガティブなメッセージを吹き込まれると、「ここで辞めるなんてリスクが大きい」というフレームに囚われることも。
3. よくある“辞められない”理由5選
1. 「もう少し頑張れば評価されるかも…」という期待
サンクコスト効果と表裏一体の心理です。退職してしまえば上司の評価も得られず、頑張りが無駄になったと感じるのが怖い。しかし、ブラック企業で正当な評価を得られるのは難しいという現実も。
2. 「辞めた後が不安だから…」
再就職が難しいかもしれない、生活費が途絶えるかもしれない――そうした不安から、一歩を踏み出せません。ここには損失回避が大きく影響しています。
3. 「人間関係を壊したくない」
ブラック企業だとしても、同僚や先輩・後輩と仲良くなったり、関係性ができたりすることはあります。すると、「自分だけ辞めるのは気まずい」という心理が働くのです。
4. 「周囲の目が気になる」
転職回数が増えることに対する世間体の悪さや、家族や友人からの「また仕事辞めるの?」という目線が怖くて踏み止まるケースです。
5. 「自分が耐えられないだけかも…」という自己否定
ブラック企業の常套手段であるパワハラやモラハラにより、「自分が情けないからこんなに辛いんだ」と追い込まれる場合も。結果、「ここで踏ん張らねば価値がない」と思い詰めてしまいます。
4. 抜け出すためには?
1. “切り捨てる”勇気
- 「過去の努力は学びとして活かせる」と割り切る
- 「このまま続けてもさらに損失が膨らむかもしれない」という将来を想像する
2. “現状維持”もリスクであると認識する
ブラック企業に長くいることで体調を崩したり、キャリアを断念せざるを得ない未来こそ大きなリスク。
- 現状を続けることで被る損失もきちんと計算しよう
3. 情報収集・小さな行動から始める
いきなり退職届を出すのが怖いなら、転職サイトやエージェントで情報を集めたり、副業を試すなど小さな一歩を踏み出すだけでも状況は変わります。
4. 第三者の視点を取り入れる
友人や家族、あるいはキャリアカウンセラーに相談すると、客観的な状況を見つめ直せます。ブラック企業で洗脳的な刷り込みを受ける前に、外部の冷静な声に耳を傾けましょう。
5. 自己否定をやめ、セルフケアを大切に
パワハラ・モラハラ環境にいると自信を失いがちですが、あなたが悪いわけではないのです。早めに心療内科や労働相談窓口に相談し、自分を守る行動を取りましょう。
5. まとめ
ブラック企業にいる人が「なんでまだ働いているんだろう?」と思いながらも辞めない理由には、サンクコスト効果、現状維持バイアス、損失回避など、行動経済学が示すさまざまな心理メカニズムが関わっています。つまり、それほどまでに人は変化を恐れ、過去を手放しづらいということ。
しかし、そのまま何年も我慢を続けると、心身の健康やキャリア形成に大きな代償を払うリスクがあります。辞めることは決して「逃げ」ではありません。むしろ、新しい環境を模索することは自分を守り、未来を切り開くための一歩です。
もし今の会社が本当にブラックだと感じるなら、
- 「過去の努力」を無駄にしないためではなく、「これ以上損失を増やさない」ために客観的な情報収集や第三者のアドバイスを受けながら、自分の人生を見直すことをおすすめします。
自分の心身を守り、より健康的で前向きな職場に巡り合うための勇気ある選択ができるよう、少しでも本記事がヒントになれば幸いです。あなたの未来がより良い方向へ向かうことを応援しています!
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