「もう会社に行くのがつらい」「毎日サービス残業でクタクタ」…そんなブラックな環境でも、なぜか簡単に会社を辞められない人がいます。
傍から見れば「早く辞めればいいのに」と思ってしまうのに、当の本人はさまざまな理由や感情に縛られて、ずるずると居続けてしまう――。
実は、こうした現象には行動経済学の視点が大きく関係していることをご存じでしょうか?
本記事ではブラック企業を「辞めない人」の心理を、行動経済学の理論をベースに紐解きながら解説します。辞められない自分や周囲の人の心理を客観的に知ることで、今後の判断材料になれば幸いです。
ブラック企業にいるとどうなる?

長時間労働・サービス残業
「もう何時間働いてるんだろう?」とカレンダーを見返すたびに愕然とするのが、ブラック企業の特徴的な長時間労働です。
定時を過ぎても仕事が山積みで、休日出勤をしても終わらない案件を抱え、身体も頭も休まらないまま翌週へ突入……なんて状態が続くと、本当に心も身体もボロボロになります。
しかも、そうした残業がサービス残業(無給)として扱われることも多いのが現実。
「これくらいは当たり前」とか「社会人なら夜遅くまで頑張るのが普通でしょ」と言われると、自分も「そうなのか…」と納得してしまいがち。
でも、何もかもが当たり前じゃないんです。疲れた体でデスクに向かい、休日も休めず出勤していると、プライベートの時間はほぼゼロ。
家族や友人との予定すら立てられず、気づけば生活が仕事だけに支配されてしまいます。
パワハラ・モラハラ
どんなに忙しくても、人間関係が良好ならまだ救われることはあるかもしれません。でもブラック企業では、長時間労働に加えてパワハラ・モラハラまで横行していることが多いんです。
上司からの怒鳴り声、理不尽な命令、「お前は使えない」などの人格否定的な叱責――こんな言葉を浴びせられ続けたら、誰だって自信を失います。
私も以前、上司の前に立つだけで胃が痛くなり、「ああ、また怒鳴られるかもしれない」と考えると頭が回らなくなって、さらにミスが増えるという悪循環に陥ったことがあります。
本来は仕事の意見交換をするはずのミーティングが、ただの罵倒や嫌味大会に変わってしまう職場だと、もはや自分の成長どころではありません。
一日過ごすだけでヘトヘトになり、精神が削られていく感覚を味わうことになってしまうのです。
キャリア形成が難しくなる
「自分の成長のために、もっと新しい知識を学びたい」「将来の転職やスキルアップのために専門性を身につけたい」――こうした意欲があっても、ブラック企業の環境下ではなかなか実現できません。
なぜなら、長時間労働でそもそも勉強する余裕がないし、パワハラ気質の上司からは“そんなことに時間を割くくらいなら仕事しろ”と言われてしまう。
そして、負担ばかり増える激務の現場で疲れ果てていると、自分が本来やりたかったはずの仕事への準備や資格取得も後回しに。
気づけば何年も同じ状況に埋もれて、キャリアチェンジしようにも実績やスキルが足りなくて踏み出せない…という方は本当に多いです。
結局、視野を広げるための行動が取れないまま日々が過ぎてしまい、後になって「もっと早く抜け出しておけばよかった」と後悔する人がたくさんいます。
うつ病
最終的に一番怖いのが、メンタル面での不調。長時間労働やパワハラ、モラハラを日常的に受け続けると、心が悲鳴を上げる瞬間が必ずやってきます。
朝起きたら何もやる気が出ない、職場の最寄り駅に近づくと息苦しくなる、食欲が湧かない、夜も眠れない――。これらはすべて、うつ症状の入り口かもしれません。
一度うつ病を患ってしまうと、回復には時間もかかりますし、仕事や生活を大きく制限せざるを得なくなるのが現実です。
特にブラック企業だと、休養や通院をする余裕すら与えられないケースも多く、「体調管理は自己責任」「甘えるな」のような無理解な態度でさらに追い詰められてしまうんです。
こうなると、どうしようもなくなる前に早めに逃げる選択も視野に入れるべきだと思います。
行動経済学で見る「辞められない心理」の正体

サンクコスト効果
今まで費やしてきた時間や労力が惜しく、損をしたくないという心理。
こうした考えが強いと、たとえ不合理な状況でも辞める決断が鈍りがちです。
現状維持バイアス
人は新しい状況に踏み出すよりも、たとえ不満があっても現状を維持しようとする傾向が強いです。転職や退職という大きな変化を起こすより、「今の状態を続けた方がマシ」と感じてしまうのが現状維持バイアスです。
損失回避
「得をする」より「損をしない」ことを優先したがる心理。
このような心配が先に立ち、目の前で確定している安定(少なくとも今の仕事の給料はある)を手放すのを恐れます。
フレーミング効果
物事の捉え方(フレーム)によって判断が左右される現象。
- 上司から「ここで辞めたら根性なしだ」「次の仕事も結局ダメだぞ」などネガティブなメッセージを吹き込まれると、「ここで辞めるなんてリスクが大きい」というフレームに囚われることも。
よくある“辞められない”理由5選
「もう少し頑張れば評価されるかも…」という期待
サンクコスト効果と表裏一体の心理です。退職してしまえば上司の評価も得られず、頑張りが無駄になったと感じるのが怖い。しかし、ブラック企業で正当な評価を得られるのは難しいという現実も。
「辞めた後が不安だから…」
再就職が難しいかもしれない、生活費が途絶えるかもしれない――そうした不安から、一歩を踏み出せません。ここには損失回避が大きく影響しています。
「人間関係を壊したくない」
ブラック企業だとしても、同僚や先輩・後輩と仲良くなったり、関係性ができたりすることはあります。すると、「自分だけ辞めるのは気まずい」という心理が働くのです。
「周囲の目が気になる」
転職回数が増えることに対する世間体の悪さや、家族や友人からの「また仕事辞めるの?」という目線が怖くて踏み止まるケースです。
「自分が耐えられないだけかも…」という自己否定
ブラック企業の常套手段であるパワハラやモラハラにより、「自分が情けないからこんなに辛いんだ」と追い込まれる場合も。結果、「ここで踏ん張らねば価値がない」と思い詰めてしまいます。
抜け出すためには?
“切り捨てる”勇気
自分の健康や未来のキャリアを守るために、過去の努力をあえて断ち切ることは必要な選択です。
ブラック企業で過ごす時間が長ければ長いほど、心身へのダメージが蓄積し、その分だけ回復にも時間と労力がかかるためできるだけ早く見切りをつけましょう。
私の友人が、長年働いた会社を「ここで耐えた努力はすべて無駄になるのでは」と悩みながらも退職しました。結果的に次の職場で評価され、今では毎日イキイキと仕事を楽しんでいます。
たとえ年数分の努力を捨てることがもったいなく感じても、これ以上膨らむ損失を防ぐために勇気を持って“切り捨てる”ことが、むしろ自分を救う大きな一歩になります。
現状維持も危険であると認識する
長時間労働やパワハラが慢性化すると、心身が壊れる危険性が高まり、うつ病などになれば転職もままならなくなります。そうなる前に自分自身の将来を見つめることも重要です。
私自身、過去に「転職は怖いし、とりあえず現状維持で…」と先延ばしにしていたら、残業疲れから体調を崩し、結局休職せざるを得なかった時期がありました。長く勤めた会社だからこそ辞めにくかったですが、体調を崩してしまえばそれまでのキャリアさえ活かしにくくなります。
辞めた後の不安はあっても、今のままブラック環境にいるリスクのほうが遥かに大きいと理解することが重要です。
情報収集・小さな行動から始める
いきなり会社を辞める勇気が持てないなら、情報収集や副業などから一歩を踏み出してみるのも手です。
急に退職届を出すと生活面やメンタル面で大変な衝撃を受けますが、まずは転職サイト登録や資格取得、副業を試すなどで“出口”を用意しておくと心が軽くなります。
小さな行動がもたらす安心感は意外にも大きいです。いざというときに備え、いくつかの選択肢を確保するだけで気持ちに余裕が生まれます。
第三者の視点を取り入れる
自分では当たり前だと思い込んでいる劣悪環境が、他人から見ると明らかに異常ということもあります。
ブラック企業は洗脳的な社風で「こんなもの普通だ」と思わせがち。でも、外部から見ると「それ、明らかにおかしいよ」という場合が多いため、客観的な意見を聞くことは心のケアにもなります。
友人・家族やキャリアカウンセラーなど、社外の人と話すことで、ブラック企業に慣れてしまった自分を目覚めさせ、行動を起こすきっかけを得られる可能性があります。
自己否定をやめ、自分を一番大切に
ブラック企業にいると「自分がダメだから怒られるんだ」と思い込みがちだが、それは環境のせいかもしれません。
パワハラやモラハラで自信を失い、“何をやっても責められる”状況が続くと、自分を攻め続けてしまいます。また、実体験ですが一度メンタルが壊れると立ち直りにはかなり時間がかかります。
怒られる経験が増えると自分を否定しがち。でも本当は環境が合わないだけかもしれません。
まずは生活習慣を整え、趣味やリラックスできる時間を確保するなどセルフケアを心がけることが重要です。
まとめ
ブラック企業にいる人が「なんでまだ働いているんだろう?」と思いながらも辞めない理由には、サンクコスト効果、現状維持バイアス、損失回避など、行動経済学が示すさまざまな心理メカニズムが関わっています。
つまり、それほどまでに人は変化を恐れ、過去を手放しづらいということ。
しかし、そのまま何年も我慢を続けると、心身の健康やキャリア形成に大きな代償を払うリスクがあります。辞めることは決して「逃げ」ではありません。むしろ、新しい環境を模索することは自分を守り、未来を切り開くための一歩です。
もし今の会社が本当にブラックだと感じるなら、
「過去の努力」を無駄にしないためではなく、「これ以上損失を増やさない」ために客観的な情報収集や第三者のアドバイスを受けながら、自分の人生を見直すことが大切です。
自分の心身を守り、より健康的で前向きな職場に巡り合うための勇気ある選択ができるよう、少しでも本記事がヒントになれば幸いです。
未来がより良い方向へ向かうことを応援しています!
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